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最高裁判所第二小法廷 昭和31年(あ)106号 判決 1956年10月05日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人大野栄三の上告受理申立理由について(理由書第一点)

所論は、職業安定法六三条は同一、二号所定の犯罪に対し法定刑として一年以上十年以下の懲役刑のほかに撰択刑として二千円以上三万円以下の罰金に処する旨を定めている、されば本件は裁判所法二六条二項二号に規定する法定刑が「短期一年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪」に該当しないから法定合議事件でない、それゆえ本件につき検察官の起訴に基づき静岡地方裁判所浜松支部裁判官内山英二が一人制の裁判所として審判したのは適法である、然るに原審は検察官の控訴趣意を容れ本件は裁判所法二六条二項二号に従い合議体により審判すべきであるとし、一審判決を破棄したのは法律の解釈を誤った違法があるというに帰する。

しかしながら裁判所法二六条がいわゆる法定合議事件を認めた理由は法定刑の重い事件もしくは犯罪の性質、内容により裁判官の合議体で慎重に審判を行わせ被告人の利益を十分に擁護保障しようとする趣旨に出たものであるから、本事案のように選択刑として罰金刑が定められている場合であっても、簡易裁判所に起訴することなく懲役刑を以って処断するを相当として地方裁判所に起訴された場合には、その法定刑の最下限である一年以上の刑に処せられることが予定されているのであるから、選択刑として罰金刑の定めがない場合と同様の条件の下におかれているといえるのである、それゆえ本件犯罪に対する法定刑に選択刑として罰金刑が定められていてもなお裁判所法二六条二項二号に該当するものとして合議体で審判することが正しいのであってこれと同旨に出た原審の判断は正当であるから論旨は採用できない。また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田 克)

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